診療科
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認知症は年をとるとともに増える病気です。現在、日本では65歳以上の高齢者100人中5から10人が認知症であると言われています。85歳以上では、3人に1人が認知症とも言われています。
認知症をひきおこす病気でもっとも多いのがアルツハイマー病、レビー小体型認知症といった「変性疾患」、そして脳の動脈硬化が原因の血管性認知症などがあります。
「変性疾患」は、脳の中に異常な蛋白質がたまることにより、徐々に神経細胞が死んでしまうことが原因ですが、その詳しい原因はまだわかっていません。
近年は、高血圧の治療が普及したことにより、血管性認知症が減りアルツハイマー病などの変性疾患が増加しています。
当院では、認知症の診断として、専門看護師による問診、医師の診察の後に、血液検査、MRI、脳血流シンチなどの検査をおこなっています。その後の外来での治療ももちろんおこなっていますが、かかりつけ医がいる場合はそちらから投薬をしていただき、年に1回程度当院で検査をおこなうという形もとっています。
近年、世界中で疫学調査がおこなわれており、その結果血圧が高い、過度の飲酒、肥満、運動不足、魚や野菜より肉を好んで食べる、社交性がない、などが認知症の誘因であることがわかっています。また教育を受けた期間が長いほど認知症になりにくいこともわかっています。ただし、これは相対的なものですので、大学の教授をした人でも認知症になる人はいくらでもいます。
実は、認知症は症状が出現する10年以上前から、脳の中では密かに病気が始まっていることが、最近の研究でわかってきました。ですから、認知症を予防するためには、上記のことを40〜50代から気をつけなければいけないのです。
よくMRIやCTで脳の写真をとると、それだけで認知症かどうかがわかると思っておられる方がいます。確かに認知症の診断のためには、MRIやCTは不可欠の検査ですが、実は必ずしもこれだけでわかるわけではありません。特に認知症の初期であれば、こうした検査をおこなっても脳の萎縮がほとんどないことも珍しくありません。また年齢相応の脳の萎縮があっても、認知症の症状がない人もたくさんいます。
まず認知症を心配される患者さんが受診された場合は、記憶力や計算能力などを確認する簡単な検査をおこないます。その後、血液検査やMRI、脳血流シンチといった検査をおこない、その結果を総合して診断します。
10年前に、はじめてアルツハイマー病の薬ができて、現在は4種類のアルツハイマー病の薬が使えるようになりました。このうち3種類は同系統の薬です。
アリセプト | レミニール | リバスタッチ | メマリー |
---|---|---|---|
錠剤 | 錠剤 | 貼り薬 | 錠剤 |
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤 | NMDA受容体拮抗薬 |
アリセプト、レミニール、リバスタッチはすべてアセチルコリンエステラーゼ阻害剤という種類の薬です。この薬は、脳の中のアセチルコリンという物質を増やす働きがあります。アセチルコリンは脳の中で、神経と神経の伝達に必要な物資なので、これが増えることにより脳の機能が改善します。
メマリーは脳の中のNMDA受容体というものの働きを抑えることにより、神経細胞の過剰な働きを抑えます。
アリセプト、レミニール、リバスタッチはいずれも、軽度から中等度の患者さんでないと効果がなく、それ以上に進行すると効果も出にくくなっていきます。ですから、軽度であっても明らかに症状があれば始めたほうが良いと思います。
副作用は下痢、食欲不振などです。万一、副作用が強く出ても服用を中止すれば、ほとんどの場合、副作用も出なくなります。
メマリーだけが、中等度以上の患者さんに使用します。逆に、軽症の人にメマリーを投与しても効果はあまりありません。中等度というのは、基本的な身の回りことはできるが、一人で買い物に行ったりができない、という程度です。
残念ながら、物忘れが目に見えて減ることは稀です。むしろ、意欲や気分の改善といった効果が出てくることが多いようです。具体的には、しなくなった家事をするようになった、外出の頻度が増えた、会話が増えた、表情が明るくなったといったことです。また薬が効いている間は、それほど病状の進行も見られません。一方、薬の効果は永久ではなく通常1-2年と言われています。ですから、何年も薬を服用していても症状は徐々に進行していくことになります。
薬の効果には個人差があります。効果が実感できるのは全体の2/3程度の方です。残念ながら、服用しても効果が実感できない方もいらっしゃいます。
また中等度以上の患者さんに使われるメマリーという薬は、患者さんの興奮や怒りっぽさを抑える作用があります。また、患者さんによっては意欲などの改善が見られることもあります。
認知症の方では、怒りっぽくなったり興奮しやすくなる人がいます。こうした症状に対しては、抑肝散という漢方薬を使うことがあります。抑肝散はテレビ・新聞などでも取り上げられることが多くご存知の方も多いと思いますが、やはり物忘れ自体を良くするわけではありません。
最大の違いは、認知症の方の場合は、忘れているという事自体がわからなくなる、ということです。具体的には、通常の物忘れであれば、後から人に指摘されると思い出すことがほとんどです。例えば、「おばあちゃん、今日は病院に行く日だったでしょ?」「あ、そうだった!」といった具合です。しかし、認知症の方はいくら指摘をしても思い出すことができません。場合によっては、「私はそんなこと聞いていない、あなたが嘘を言っているんだろう」と怒り出すことすらあります。財布や鍵をなくしてしまうと、家族が盗ったと言ったり泥棒が入ってきたと言い出す人もいます(物取られ妄想)。ですから、認知症の方は自分から認知症外来に来ることは非常に稀で多くの場合は、家族が連れてこられます(=病識の欠如)。
A7でご説明したように、本人は病識がないことが多く、家族が受診を勧めても嫌がることが珍しくありません。このような場合、かかりつけ医がいれば、そちらから「一度、脳の検査をしておいたほうが良いですよ」と言ってもらうとうまくいくことがあります。本人には健康診断だから、と言って連れてきていただいても結構ですが、その場合は診察前にそのようにスタッフにお伝えください。いずれにせよ、無理に連れてくるのは難しいですし、仮にそれで検査などできたとしても、その後の治療は続かないことがほとんどです。
具体的には、以下の様な症状が受診の目安になります。
癌に比べると認知症の告知はまだまだ一般的ではありません。癌であることを告白する芸能人は今は珍しくありませんが、認知症であることを告白する芸能人はほとんどいません。ひとつには、認知症という病気がもつイメージがまだまだ悪いことがあると思います。また、患者自身の病識が乏しいということもあります。医師の間でも、原則告知すべきという考え方の人もいれば、個々の例で判断すべきという人もいます。